bosefermiのブログ

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2021京都大学理系数学大問3無限級数和

 


【問題】

無限級数\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{2}\right)^n\cos\left(\frac{n\pi}{6}\right)の和を求めよ.

 

シンプルで試行錯誤もしやすいが, この年の問題のセットの中では難しい.

今回は高校数学の域を少し出るが高校生が書いてもおかしくない解き方を紹介する.

 

【解答】

複素数\alpha=\cos\frac{\pi}{6}+i\sin\frac{\pi}{6}を定める.

ド・モアブルの定理より任意の整数nに対して

\alpha^n=\cos\frac{n\pi}{6}+i\sin\frac{n\pi}{6}

 したがって

無限級数\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{2}\right)^n\alpha^nを考えて実部が\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{2}\right)^n\cos\left(\frac{n\pi}{6}\right)となる.

 

さて,

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{2}\right)^n\alpha^n=\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{\alpha}{2}\right)^n=\frac{1}{1-\frac{\alpha}{2}}\\ \displaystyle =\frac{1}{1-\frac{1}{2}\cos\frac{\pi}{6}-i\frac{1}{2}\sin\frac{\pi}{6}}=\frac{1-\frac{1}{2}\cos\frac{\pi}{6}+i\frac{1}{2}\sin\frac{\pi}{6}}{1-\cos\frac{\pi}{6}+\frac{1}{4}}

 よって, 実部だけを見て求める級数和は

\displaystyle \frac{1-\frac{1}{2}\cos\frac{\pi}{6}}{1-\cos\frac{\pi}{6}+\frac{1}{4}}=\frac{1-\frac{\sqrt3}{4}}{\frac{5}{4}-\frac{\sqrt3}{2}}=\frac{14+3\sqrt3}{13}

 

【裏側の数学】

大学数学の範囲でオイラーの公式というものがある.

e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta

左辺の「複素数乗」が高校数学では定義されていない. この式の整数n乗(あるいは\theta→n\theta)がド・モアブルの定理と対応する.

e^{in\theta}=\cos n\theta+i\sin n\theta

f:id:bosefermi:20210531183114p:plain

 これを知っていればcosのn倍角がn乗と対応して「ただの等比数列」に見えるというからくりである.

「(知ってる関数)×cos(もしくはsin)」の和や積分において複素数で考えてから実部や虚部だけ見ることは有用で, 大学数学で多用する. 

この発想の根幹である「複素数列」についての学習は高校では行わないため, この答案は高校数学の範囲を超えていると言える. ただし複素平面での点列や実部虚部それぞれを実数列として捉えるという抜け穴があり, 大学入試での出題はそこそこある.

 

【コメント】(2021.9.13編集)

ド・モアブルの定理は加法定理と帰納法により示される. 今回の問題の高校数学だけの解答は各予備校や出版社のものを見ると,かなり大変のため方針だけ示して部分点をもらい,計算は後回しにするのが賢い.

画像はwikipediaより